暗号化したままAI分析、第5世代FHE技術「GLスキーム」がプライバシーAIの商用化を加速

5th Gen FHE "GL Scheme" Accelerates Private AI Commercialization

ソースに基づく報道記事 6件の情報源

ポイント

  • 2026年3月8日、DESILOとCraig Gentryが第5世代FHE「GLスキーム」発表
  • ニューラルネットワークの行列乗算効率を大幅に改善
  • データ暗号化AI分析を加速し、プライバシーAI商用化に貢献
米国のビジネス通信配信サービスPRNewsWireは、韓国・台湾拠点のディープテク企業DESILOとFHE発明者のCraig Gentryが共同開発した第5世代完全準同型暗号方式「GL(Gentry–Lee)スキーム」を発表したと、2026年3月8日公開の記事で報じた。

DESILOとは、2020年に創業した韓国・ソウルおよび台湾・台北を拠点とするディープテク企業で、完全準同型暗号(FHE)を核としたプライバシー強化技術を専門とし、「DESILO Clean Room(DCR)」と呼ばれるデータクリーンルームプラットフォームや、GPU加速にも対応した開発者向けFHEライブラリ「Liberate.FHE」を提供しているという。完全準同型暗号(FHE:Fully Homomorphic Encryption)とは、データを暗号化したままの状態で加算・乗算などの演算を行える暗号技術であり、データを復号せずにAI分析や統計処理が可能になるため「プライバシー保護AI」の基盤技術として世界的に注目されている。

GLスキームの「G」はCraig Gentry、「L」はDESILO CEOのSeungmyung Lee(李承明)の頭文字をとったもので、2026年3月7日にFHE分野の国際コミュニティ「FHE.org」が主催する「FHE.org 2026カンファレンス」にてデビューしたと報じられた。同スキームはニューラルネットワーク推論に不可欠な行列乗算(matrix multiplication)の計算効率を大幅に改善したことが最大の特徴だとしている。行列乗算とは機械学習モデルが予測・判断を行う際に繰り返し実行される基本演算であり、これまでFHE技術の商用展開を阻む主要なボトルネックとなっていた処理だという。

Craig Gentryとは、2009年に世界初の実用的FHE方式を発明したコンピュータ科学者で、元IBMリサーチ所属であり、FHE分野の世界的権威として広く知られている。DESILOは米国NIH(国立衛生研究所)が支援するゲノム・医療データのセキュア解析国際競技会「iDASH 2020」において世界1位を獲得しており、その技術を基に2022年7月にLiberate.FHEをリリースしたと報じられている。また同社は2021年7月にシリーズAの資金調達を完了している。さらに同社は2024年に韓国個人情報保護委員会(PIPC)による予備的適格性審査を通過しており、同年にはアジア太平洋地域のテクノロジー専門誌「CIO Review APAC」により「トップ20韓国テック企業」にも選出されたという。

今回のGLスキーム発表が業界から注目される背景には、プライベートAI推論の商用化をめぐる技術的障壁がある。プライベートAI推論とは、暗号化されたまま機械学習モデルを動かすことを指し、医療診断データや金融取引データをクラウドAIに投入する際に復号を一切必要としないアプローチを実現する。従来のFHE方式では行列乗算の処理が著しく遅く、実用的なAIサービスへの組み込みが困難とされてきた。GLスキームはその課題を第5世代技術として突破したものだとしており、医療・金融・政府機関向けに機密データを安全に共同分析するソリューションを展開するDESILOの中核技術基盤となる見込みだという。

EU AI規制法(EU AI Act)が段階的に施行されるほか、各国でデータ保護規制の強化が続く2026年以降の事業環境において、「暗号化したまま分析できる」FHE技術のビジネス価値は急速に高まっているとPRNewsWireの記事は指摘している。DESILOが提供するDCRプラットフォームは、複数組織が生データを互いに開示することなく、暗号化されたまま共同データ分析を行えるSaaSサービスであり、GLスキームの性能向上によってこのプラットフォームの処理速度・実用性が大きく向上するとしている。

記者の目

この技術発表が日本の広報・マーケティング担当者にとって他人事でない理由は、数字が示している。総務省「情報通信白書2024」によると、日本企業のAI活用率は約46%に達する一方、「データのプライバシー・セキュリティ懸念」がAI導入の最大の阻害要因として回答企業の約60%に挙げられている。電通グループや博報堂DYホールディングスのような大手広告・PR会社が保有する消費者パネルデータや購買データを複数社間でAI横断分析する際、改正個人情報保護法のもとでは法的障壁が高く、データ連携コストが膨らんでいる。FHEベースのクリーンルーム技術はこの構造問題を正面から解決する手段となり得る。

国内では富士通とNECがFHE・秘密計算の研究を進めているが、商用レベルで高速行列演算を実現した国産製品は依然として限定的だ。IDC Japanは日本の個人データ流通市場が2025年度に3,000億円超に達すると推計しており、「情報銀行」制度との親和性も高いこの領域での出遅れはビジネス機会の損失に直結する。日本の広報・マーケティング担当者がまず取るべき具体的アクションは、自社のデータ共同分析プロジェクトにおいてFHEクリーンルームの導入可否を技術部門と共同で検討することだ。「プライバシーが怖いからAI分析をやめる」という選択肢より、「暗号化したまま分析する」技術の調達コストを比較試算する段階に入っている。

情報ソース一覧

完全準同型暗号プライバシーAIGLスキームDESILO

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