AI活用「ほぼ全員」でもガバナンス整備は4%未満、米国広報業界の深刻な二極化

AI Adoption Nearly Universal, Yet Governance Lags at 4% in US PR Industry: A Deep Divide

ソースに基づく報道記事 8件の情報源

ポイント

  • AIはコミュニケーション担当者の日常業務に事実上完全に浸透した
  • だがディープフェイク対応策は4%未満と深刻に乖離
  • 過半数がこの新たな脅威に無防備な状態だ
米国シカゴ拠点の広報・コーポレートコミュニケーション専門メディア・教育企業であるRagan Communications(PR Daily等のメディアやカンファレンスを運営する業界最大手の一つ)傘下のAI戦略調査・研究部門「Ragan Center for AI Strategy」は、コミュニケーション業界初となる業界横断ベンチマーク調査レポート「The State of AI & Communications Report: From Adoption to Authority」を発表したと、同社が運営する広報・マーケティング専門オンラインメディアPR Dailyが2026年3月10日公開の記事で報じた。

レポートによると、2026年3月時点でAIはコミュニケーション担当者の日常業務に事実上完全に浸透しており、ほぼすべてのチームで実験的な活用が確認されたという。かつて「AIを使うかどうか」が議論の中心だった時代は終わり、焦点は「いかに責任ある形で制度化し、企業価値に結びつけるか」という成熟度の問題へと完全に移行したとレポートは指摘している。

一方で、AI導入の拡大と制度的な整備状況との間には深刻な乖離が生じていることも明らかになった。ディープフェイク(人物の映像・音声を精巧に偽造する技術)や合成メディアへの対応策が「十分に整っている」と回答したコミュニケーション担当者はわずか4%未満にとどまったという。さらに深刻なのは、対応プロセスが「存在しない、または存在するかどうかも不明」と回答した割合が51.5%に達した点で、コミュニケーション業界の過半数がディープフェイクという新たな信頼性脅威にほぼ無防備な状態にあることが浮き彫りになったとしている。

今回のレポートはRagan Center for AI Strategyが初めて実施した業界ベンチマーク調査であり、AIが日常業務に定着した「次のフェーズ」を体系的に測定する試みとして業界から注目を集めているという。調査はPR・コミュニケーション領域の広範な職種・規模の組織を横断して実施されており、米国コミュニケーション業界全体の傾向を反映した内容だとしている。レポートの発表はRagan Communicationsが主催するコミュニケーション・PR業界向けAI専門カンファレンス「Ragan AI Horizons Conference」の活動とも連動しており、業界全体でAI活用の指針策定を加速させる狙いがあるとみられると同メディアは伝えている。

レポートはまた、GEO(Generative Engine Optimization=生成AIエンジン最適化)と呼ばれる新たな手法の台頭についても言及しているという。GEOとはChatGPTやPerplexityなどの生成AI型検索エンジンにおいて、企業・ブランド情報が適切に参照・表示されるよう最適化する手法であり、従来のSEO(検索エンジン最適化)やメディアリレーションズを超えた新たな評判管理戦略として広報担当者に求められるようになったとしている。AIが情報収集の入り口となる時代において、企業のブランド情報がAI型検索にどのように認識・引用されるかは、従来のメディア露出と同等かそれ以上の重要性を持つという認識が業界に広がっているとレポートは示唆しているという。

人材面でも構造的な変化が進んでいることがレポートで指摘されている。ジュニアスタッフがAIツールを活用することで反復的な作業から解放され、より戦略的な業務へとシフトできる機会が生まれているという。しかし同時に、AI活用スキルを持たない広報担当者は職を失うリスクを抱えるという二極化が進行しており、「AIを使えるかどうか」がコミュニケーション人材の評価軸として定着しつつあるとしている。米国の大手生命保険会社でFortune 100企業の一つであるNew York Lifeのコーポレートコミュニケーション責任者Paul Gennaro氏のコメントもレポート関連の情報として引用されており、AI活用を組織戦略に組み込むことの重要性が経営層レベルでも認識されていることが示されている。

記者の目

今回のレポートが突きつける最も重要な数字は「4%未満」だ。AIを全員が使いながら、ディープフェイク対応が整っている組織が100社中4社にも満たないという現実は、米国ですらこの状況である。日本はさらに深刻と見るべき根拠がある。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)の2024年調査では、生成AIを広報業務に「本格導入済み」とする国内広報担当者は推定15〜20%程度にとどまっており、米国の「ほぼ全員が実験的活用」という水準と比較しても大きく後れをとっている。経済産業省の2024年「AI活用実態調査」によれば、AIリスク管理規程を策定済みの大企業ですら約30%であり、ディープフェイク対応策に限ればさらに低水準であることは容易に推測できる。

日本の広報担当者が今すぐ着手すべきは、AI利用指針の文書化とディープフェイク対応フローの明文化という二点に絞られる。「どのAIツールを何の業務に使うか」「偽動画・偽音声が拡散した場合の初動対応は誰が担うか」を社内文書として整備するだけで、ガバナンス面では国内競合の大多数を上回ることができる。約3,000億円規模の国内PR市場(PRSJによる2023年推計)において、この整備の有無が近い将来クライアントの代理店選定基準になる可能性を、数字は明確に示している。

情報ソース一覧

AI活用広報業界ガバナンスディープフェイク

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