カンヌ2024、アーンドメディアが席巻——PR主導キャンペーンが証明した「広告ゼロでROI926%」の衝撃

Cannes 2024: Earned Media's Rise, PR Campaigns Achieve 926% ROI with Zero Advertising

ソースに基づく報道記事 8件の情報源

ポイント

  • カンヌライオンズ2024でPR主導キャンペーンが席巻した
  • アーンドメディアが台頭し、広告ゼロで高ROIを達成
  • Pop-TartsがROI926%を記録し業界に衝撃を与えた
英国の広告・PR業界専門誌PR Weekは、世界最大の広告・クリエイティブ・PR業界の国際アワードフェスティバルであるCannes Lions(カンヌライオンズ)2024年大会の受賞結果を分析した特集記事を報じた。記事では、有料広告ではなく口コミや自然拡散によって獲得するメディア露出「アーンドメディア」の台頭が顕著であり、PR主導のキャンペーンが複数の最高賞グランプリを獲得したことが際立った大会だったとしている。

カンヌライオンズ2024年大会は、フランス南部の都市カンヌで2024年6月に開催された。大会主催組織LIONS(ライオンズ、英国に本拠を置くアワード運営・業界教育団体)の公式発表によると、2024年大会への応募総数は過去最多となる26,753件を記録した。なかでもTikTokやInstagramなどのSNSを活用した施策を評価する「ソーシャル&インフルエンサー部門」の応募数は前年比21%増で、これは2018年以来最高の増加率だった。また「イノベーション部門」は前年比52%増と急拡大した。これらのデータを踏まえ、PR Weekはデジタル文脈での創造的施策への関心の高まりが数字に表れた格好だと分析している。

今大会でとりわけ注目を集めたのは、PR戦略・アーンドメディア施策を評価する専門カテゴリー「PR Lions(PRライオンズ)」の結果だ。同部門では全34のグランプリのうち4つがPRエージェンシー主導のキャンペーンに授与されたとPR Weekは報じており、PR業界がクリエイティブ業界全体の中心的プレーヤーとして確立されつつあることを印象づけたとしている。

受賞キャンペーンの中でも特に際立つ成果を上げたのが、英国最大手の眼鏡・補聴器チェーン小売企業Specsavers(スペクセイバーズ)の「The Misheard Version(ザ・ミスハード・バージョン)」キャンペーンだ。米国シカゴ発祥のグローバルPRエージェンシーGolin(ゴーリン、インターパブリック・グループ傘下)が手がけたこの施策は、有名楽曲の「聴き間違えた歌詞」をテーマにした動画コンテンツを軸に、補聴器の必要性をユーモラスに訴求したものだという。PR Weekによれば、このキャンペーンはオーガニック(自然拡散)のSNS視聴数2,000万回を達成し、聴力検査の予約件数は当初目標比1,220%超を記録したとしている。PR Lionsグランプリに加えてAudio & Radio Lionsグランプリも受賞するW受賞となり、大会最大の話題を集めたキャンペーンの一つとなった。

フランスのビューティー大手ロレアル傘下のスキンケアブランドCeraVe(セラヴィ)のキャンペーンも驚異的な数字を残したとPR Weekは伝えている。皮膚科医推奨をブランドの核に置き、TikTokでの口コミ拡散を通じて急成長してきた同ブランドの施策は、ソーシャルインプレッション(SNS上での延べ表示回数)90億回、アーンドメディア報道2,000件、売上25%増を達成したという。さらにブランド検索数は2,200%増となり、米国最大のスポーツイベントであるスーパーボウルで最も効果を上げたブランド第1位にも選出されたとしている。

米国ケロッグ(現WKケロッグ)が製造・販売するトースター用ペイストリー菓子ブランドPop-Tarts(ポップターツ)の事例は、スポンサーシップ(スポーツイベントなどへの協賛活動)に関するROI(投資対効果)の観点で業界に衝撃を与えたとPR Weekは報じている。米国のカレッジフットボールの大会に連動した「Edible Mascot(食べられるマスコット)」キャンペーンはスポンサーシップROI926%を達成し、追加で2,100万ユニットの販売とブランド検索700%増をもたらしたとしている。

こうした受賞キャンペーンの共通点として、PR Weekは「高額な広告出稿に依存せず、リアルな話題性・ストーリーテリング・SNSプラットフォームでの自然拡散を戦略設計の核に置くことで、ペイドメディア(有料広告)を凌駕するROIを達成した」点を挙げている。背景として、調査会社の推計によると世界のソーシャルメディア広告支出が2024年に前年比14.3%増の2,473億ドル(約37兆円 ※1ドル150円換算)に達する中で、逆説的にアーンドメディアの相対的な価値が見直されているという業界潮流があるとしている。フランスの通信大手Orange(オランジュ)が女性サッカーを題材に制作したキャンペーン「WoMen's Football(ウーメンズ・フットボール)」が91カ国でカバレッジを獲得し、オーガニック再生2億回・いいね5,000万回を記録した事例や、米国の食品ブランドHeinz(ハインツ)が2019年以降にグローバル売上を12%成長させマーケットシェアを3.2ポイント回復させた施策なども、同様の文脈で高い評価を受けたとPR Weekは伝えている。

記者の目

今回のカンヌ結果が日本の広報担当者に突きつけているのは、「アーンドメディアを測れているか」という一点に尽きる。一般社団法人日本パブリックリレーションズ協会の推計によれば日本のPR市場規模は約3,500億円(2022年度)にとどまる一方、電通の「2024年日本の広告費」ではインターネット広告費だけで3兆5,000億円超と総広告費の約45%を占める。広告と広報の予算規模に10倍の開きがある日本市場では、アーンドメディアを独立した評価軸として管理する文化がそもそも育ちにくい構造がある。

Pop-TartsがスポンサーシップROI926%という数字を公開できる背景には、ROI測定の設計が施策立案の段階から組み込まれているという点がある。日経BPコンサルティングの調査では、日本企業のソーシャルメディア広告活用率は70%超に達する一方、アーンドメディアをKPIとして設定している企業は全体の20%未満にとどまるとされており、この数字が日本PR業界の現在地を端的に示している。日本のTikTokユーザー基盤が整いつつある今、「インプレッション数」「予約・購買への転換率」「検索数変化率」の3指標をKPIとして施策立案段階から明示的に設定することが、日本のPR担当者が今すぐ取れる最初の一手だ。

情報ソース一覧

カンヌライオンズアーンドメディアPRキャンペーンROI

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