税引前利益75%減が示す政策リスクと代理店モデル崩壊の現実
Global PR Industry Crisis: Major Ad Group Profit Down 75%
ポイント
- M&C Saatchiの2025年税引前利益は75%減の約9.8億円に急落し、純収益も9.2%減
- 米国政府機関閉鎖や厳しいマクロ経済環境が主な要因です
- アジア太平洋地域では売上高が31.9%減と特に深刻で、主要クライアント3社を失いました
金融情報メディアのMorningstarは、ロンドンに本拠を置く広告・コミュニケーション企業M&C Saatchiの2025年通期業績を2026年4月20日公開の記事で報じた。同社の税引前利益は2024年の1,810万ポンド(約38億7,000万円 ※1ポンド214円換算)から75%減の460万ポンド(約9億8,000万円 同)に急落したという。純収益は9.2%減の2億1,000万ポンド(約449億4,000万円 同)となり、米国政府機関の閉鎖、関税政策の影響、そして「厳しいマクロ経済環境」を主因として挙げたとしている。
利益急落の背景に何があったか
米国のメディア・マーケティング専門メディアMediaPostは2026年4月20日付の記事で、この業績悪化の背景について詳細を伝えた。同メディアによると、M&C Saatchiは「消費者マインドの低迷」と米国の通商政策の変化が、「多くのクライアントにマーケティング支出の先送りや削減を引き起こした」と説明したという。一部のプロジェクト型業務は無期限で停止されたとも報じた。また、2025年第4四半期の米国政府機関閉鎖が政府サービス関連の契約に直接打撃を与えたとしている。
アジア太平洋地域での落ち込みも深刻だったと、マーケティング専門メディアのMission Mediaは2026年4月23日公開の記事で報じた。同メディアによると、M&C Saatchiはオーストラリア事業で通期売上高が31.9%減となり、アジア太平洋地域全体では純収益が22.3%減を記録したという。オーストラリアの通信大手Optus、エネルギー企業Origin Energy、そしてオーストラリア観光局という3つの主要クライアントを失ったことが引き金になったとしている。同メディアはさらに、M&C Saatchiがオーストラリアのメディア部門「Bohemia」を閉鎖したことも伝えた。
経営トップの交代と買収観測
経営面でも大きな動きがあった。MediaPostの報道によると、2026年3月にCEOのザイド・アル=カサブ氏が就任から2年未満で退任したという。後任の選定は現在も継続中だとしている。また同月、M&C Saatchiへの敵対的買収を4年前に試みたヴィン・ムリア氏が取締役会に再加入したとも報じた。ムリア氏と同氏の会社AdvancedAdvT Limitedは合計でM&C Saatchiの株式22%を保有しており、欧州メディアでは新たな買収提案が浮上するとの観測も出ているという。
同社の執行会長ダム・ヘザー・ラバッツ氏は、「市場の不確実性は続くと予想しているが、現在のアナリスト予想に沿う形で2026年の純収益成長と営業利益成長を目標とすることに自信を持っている」と述べたとMorningstarは伝えた。2026年第1四半期の業績は「想定の範囲内」で推移しているとも述べたという。MediaPostによると、同社は2026年の有機的収益成長率がアナリスト合意予想の2.4%に達すると見込んでいると報じた。なお配当については、2024年に1株あたり1.95ペンスの配当を実施していたが、2025年は無配となったとMorningstarは報じた。代わりに自社株買い戻しプログラムを拡充するとしている。
業界全体に広がる構造的な問題
Mission Mediaの報道は、この業績悪化がM&C Saatchi単独の問題ではないと指摘している。同メディアによると、かつて世界最大の広告グループだったWPPは2017年に240億ポンド(約5兆1,360億円 同)あった時価総額が現在約31億ポンド(約6,634億円 同)にまで下落し、87%の株主価値が失われたという。WPP自身も2025年12月に英国の主要株価指数FTSE100(ロンドン証券取引所上場の時価総額上位100社で構成される株価指数)から除外されたと報じた。
また、広告グループのOmnicomとIPG(インターパブリック・グループ)が2025年末に合併し、世界最大の広告グループが誕生したとMission Mediaは伝えた。この合併では約1万人の人員削減が実施され、DDB、FCB、MullenLoweといった長年にわたって業界に親しまれてきたブランドが廃止されたという。合併に伴う費用は21億4,000万ドル(約3,210億円 ※1ドル150円換算)に上り、Omnicomの2025年の収益を実質的に消し飛ばしたとしている。同メディアはこの動きを「拡大ではなく、縮小による生存戦略だ」と表現した。
今後の見通しについて同メディアは、調査会社Forresterの予測として2026年にさらに15%の業界人員削減が見込まれると報じた。また米国のシニアマーケティング幹部の85%が今年中に代理店との関係を見直す計画であるというForresterの調査結果も紹介している。一方、フランスの広告グループPublicisは2025年に高い有機的成長を達成し、世界の新規ビジネスにおいて多数のピッチを獲得したとも伝えた。同メディアはその要因を「単なる人員削減ではなく、AI活用による事業構造の作り変え」と分析している。
情報ソース一覧
- M&C Saatchi、年間利益急落後も2026年目標達成に自信 M&C Saatchi confident of meeting 2026 aims after annual profit slumps global.morningstar.com
- M&C Saatchi、2025年に売上高が7.3%不足 M&C Saatchi Posts Revenue Shortfall Of 7.3% In 2025 04/21/2026 www.mediapost.com
- M&C Saatchiの破綻が示す持ち株会社モデルの危機 M&C Saatchi Collapse Shows Holding Company Crisis missionmedia.asia/mc-saatchi-holding-company-model-crisis-2025/
- M&C Saatchi: 2025年度決算投資家プレゼンテーション (プレゼンテーション) M&C Saatchi : FY 2025 Results Investor Presentation (Presentation) | MarketScreener www.marketscreener.com
- M&C SaatchiのPR売上高、2025年に11.4%減少 M&C Saatchi PR revenues fell by 11.4% in 2025 | PR Week www.prweek.com/article/1955328/m-c-saatchi-pr-revenues-fell-114-2025
- 通期決算 Full Year Results | Company Announcement | Investegate www.investegate.co.uk
- M&C Saatchiグループの売上高、2025年に7.3%減少 M&C Saatchi Group revenues fell by 7.3% in 2025 www.campaignlive.co.uk/article/1955193/m-c-saatchi-group-revenues-fell-73-2025
- M&C Saatchi、通期売上高と利益の減少を報告 M&C Saatchi reports lower full-year revenue, profit www.sharecast.com