広報代理店の契約書がAI時代に対応できておらず、問題発生時のリスクが代理店側に集中する構図とは
AI-generated works: Who's liable? PR agencies' contracts fall behind rapid AI adoption.
ポイント
- AIの急速な導入に広報代理店の契約書が追いつかず問題化
- O'Dwyer'sは未整備な契約書が代理店に深刻なリスク集中と警告した
- 著作権や機密保持違反など、AI起因リスクは全て代理店が負う(2026年9月18日記事)
AIが広報代理店の業務フローを変えるスピードに、クライアントとの契約書が追いつけていない。米国の広報業界専門メディアO'Dwyer'sが2026年9月18日、マイケル・ラスキー氏とアンドリュー・リッチマン氏による、契約書の未整備によって代理店側に深刻なリスクが集中していると警告する寄稿記事を公開した。
O'Dwyer'sの記事によれば、今日のAIはリサーチ、メディアモニタリング、コンテンツ制作、データ分析、ブレインストーミング、業務自動化など、広報代理店の業務のほぼ全領域に入り込んでいる。ところが代理店の実務がこれほど急速に変わったにもかかわらず、クライアントや外部業者との契約書を更新していない会社が多い。この放置が、深刻なリスクの温床になっていると両氏は指摘する。
既存の契約書が想定していなかった「第三者」
問題の核心は、現在のMSA(エージェンシーとクライアントが交わす基本取引条件を定めた包括契約書)の多くがChatGPTやClaudeのような生成AIツールが存在しなかった時代に書かれたものだという点にある。記事によれば、典型的なMSAには「成果物はクライアントへの著作権譲渡を前提とした職務著作として制作する」「機密情報を第三者と共有しない」といった条項が含まれている。しかし当時は、AIプラットフォーム自体が「機密情報を受け取る第三者」になり得るとは想定されていなかった。AIを使った制作物について、人間が最初から最後まで著作した前提に立った非侵害・独自性の保証条項も同様だ。
AIが業務に入り込んだことで、こうした条項はどちらの当事者も意図していなかった義務を生み出す可能性がある。そして契約書がAIについて何も定めていなければ、AIに起因して問題が生じた場合、そのリスクはすべて代理店が負うことになる、と記事は指摘している。著作権侵害の申し立て、機密保持義務の違反、保険の適用外となるケースが具体的なリスクとして挙げられており、エラー・アンド・オミッション保険もAIが関与した成果物には適用されないケースがあり、保険会社自体がAI関連のリスクの引き受けに慎重な姿勢を見せているという。
「すべてのAIを同じように扱う」という誤解
記事が強調するもう一つの論点は、クライアントの多くが「AIの使い方」を一律に捉えがちだという点だ。ラスキー氏とリッチマン氏は、これを代理店側が積極的に是正すべき誤解と位置づけている。会議の議事録をAIで要約することと、公開するキャンペーンコンテンツをAIで生成することは、リスクの性質がまったく異なる。それにもかかわらず、同じ厳しい制限や承認フローを適用しようとするクライアントがいる。
両氏が推奨するのは「段階的な区分け」だ。社内の定型業務に使うAIと、クライアントや一般向けの成果物に実質的に関与するAIを区別し、前者は代理店が効率よく使える領域として確保しつつ、後者についてはより詳細な情報開示や承認プロセスを設ける。アイデア出し・コンセプト探索・絵コンテ制作のような中間領域については、あらかじめ「許可された使い方」として契約書に明記しておくことで、後のトラブルを防げると記事は述べている。
代理店が「引き受けてはいけない」責任の範囲
記事によれば、AI関連の契約交渉で代理店が特に注意すべきなのは、免責条項の書き方だ。クライアントが求めるAI関連の責任条項が広範すぎるケースがある。代理店ができることは、納品前に成果物を確認すること、社内ポリシーを整備すること、スタッフを教育すること、そして品質管理を実施することだ。しかしサードパーティのAIプラットフォームがどのように学習されたか、モデルがどう機能するか、どのデータソースが使われたかは、代理店にはコントロールできない。
両氏はこの点を強調し、AIプロバイダーの技術そのものを事実上保証するような包括的な免責条項を受け入れることへの警戒を促している。代理店が負うべき責任の範囲は、実際に提供したサービスの成果物と、合意した確認手順への準拠に限定するのが合理的だと述べている。また、クライアントが生成AIの全面活用を指示してAI作成の成果物を承認した場合には、関連するリスクの一部をそのクライアント側に戻す根拠が十分にある、とも指摘している。
外部スタッフ・委託先の管理も契約の射程に
記事が見落とされがちな論点として挙げているのが、フリーランサーや制作会社など外部委託先のAI利用管理だ。クライアント契約のAI条項整備だけでは不十分で、代理店が使うフリーランサー、クリエイター、インフルエンサー、制作会社がどんなAIツールを使っているかが、代理店とクライアント双方にリスクをもたらしうる。「自社の委託先がどんなAIツールを使っているか把握しているか」という問いに即答できない広報代理店は、まずその問いから始めるべきだと両氏は述べている。
また、マーケティング・メディア業界向け専門メディアDigidayが2026年9月10日に報じた別記事では、実際の代理店幹部への取材を通じてMSA改訂の現状が明らかになっている。国際法律事務所Reed SmithでAdvertising Groupを率いるパートナーのケリー・ブルース氏は「クライアントは開示を求めている。どんなツールが使われているかを知りたいのだ」と語っている。マーケティング代理店Mile Markerの社長兼CEOスコット・シャンバーグ氏は、AIプロジェクト専用の別添書類を作るのではなく、AI対応の条項を既存のMSAに組み込む形で対応していると述べている。Mile Markerでは、AIが生成したコンテンツの知的財産帰属、メタデータの管理方法、使用ツールの透明性を、条項として既存契約に盛り込んでいるという。
デジタルマーケティング代理店Go Fishの社長デイビッド・ドウェック氏は、過去6カ月でMSAにブランド安全性とデータ保護に関する条項を追加したと明かした。一方でドウェック氏は「代理店が100年やってきた広告主との報酬構造の方が、SaaS企業になろうとするよりも慣れ親しんだやり方だ」と語り、ビジネスモデルの全面転換には慎重な姿勢を示している。VMLのグローバル最高イノベーション責任者ブライアン・ヤマダ氏は、業界としてAIのコスト構造が合意できていない現状では標準的な契約書を作ることは難しいとし、「市場の変化があまりにも速いので、柔軟性を持たせて再検討できる余地を契約に入れておくことが少なくとも私のアドバイスだ」と述べている。
情報ソース一覧
- AIが代理店ビジネスの経済学を再構築するも、契約はまだ追いつこうと奔走中 AI reshapes agency economics, but their contracts are still scrambling to catch up digiday.com
- AIが代理店の業務を再構築:あなたの契約は追いついていますか? AI Is Reshaping Agency Work: Are Your Contracts Keeping Up? www.odwyerpr.com
- 広報、PR会社、メディアリレーションズに関する速報(AIカテゴリ) Breaking News on Public Relations, PR Firms, and Media Relations www.odwyerpr.com/story/category/114/artificial-intelligence.html
- 2026年:広報における単なるもう一つの進化の年ではない 2026: Not Just Another Evolution Year in Public Relations www.odwyerpr.com
- 2026年のAI PR代理店の料金とパッケージ AI PR Agency Pricing and Packages in 2026 www.shilikajain.com/playbook/ai-pr-agency-pricing-packages-2026
- AI PR代理店の料金設定:リテーナー費用とCMOが... AI PR Agency Pricing: What Retainers Cost and What CMOs... christianlehman.com/blog/ai-pr-agency-pricing-retainer-costs-2026
- AIを活用したPR代理店の料金設定:リテーナー... | MRリサーチ AI-Enabled PR Agency Pricing: Retainer... | MR Research machinerelations.ai/research/ai-enabled-pr-agency-pricing-models-compared-2026
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