「超集中力」「天才肌」と称える採用広報が当事者を排除する逆説を米研究機関が指摘
Benevolent Stereotypes Undermine Neurodiversity Efforts: A Pitfall for DEI
ポイント
- 神経多様性で「超集中力」といった善意の固定観念が当事者を傷つけている
- 過去10年間の採用推進で、高い生産性への期待が排除構造を生んでいる
- 個性を奪い社会の構造的問題を隠蔽する点で、肯定的な固定観念も有害だ
「自閉症の人は集中力が人並み外れている」「ADHDの人は型破りな発想をする」。こうした"ポジティブ"に見える言葉が、神経多様性(ニューロダイバーシティ)の推進を掲げる組織の中で、当事者を傷つけ排除する構造を生み出している。米国PR業界のシンクタンク「IPR(Institute for Public Relations)」内に設置された多様性・公平性・包括性の専門部門「IPR CDEI(Center for Diversity, Equity, and Inclusion)」が2026年9月23日、このテーマに関する論考をIPR公式サイトに公開した。
善意の固定観念とは何か
論考によれば、過去10年で自閉スペクトラム症(ASD)・ADHD・ディスレクシア(読み書き障害)といった神経発達に多様性を持つ人々を採用・定着させる施策が、様々な産業で拡大してきた。多くの取り組みが「神経発達の多様性を持つ従業員は採用されにくいが、神経発達に差異のない同僚より生産性が高い」という考え方を前提としている。
ところがこの前提そのものが問題をはらんでいるとIPR CDEIは指摘する。「怠惰」「幼稚」「共感が薄い」といった否定的な固定観念が有害であることは多くの組織が認識しているが、その対抗策として「超集中力がある」「超生産的」「超人的な能力を持つ」という"ポジティブ"な言葉を使う傾向がある。これが「善意の固定観念(benevolent stereotypes)」と呼ばれる状態だ。
論考は、こうした善意の固定観念が当事者の一部には共感をもって受け入れられる場合もあると認めている。「スーパーパワー」という表現を自己表現として好む人も存在する。しかしその特性をすべての神経発達の多様性を持つ人に一般化すると、ステレオタイプに合致しない人が排除され、現実的ではない期待を押しつけることになる。肯定的な固定観念も否定的な固定観念も、当事者から個人としての固有性を奪い、職場・社会側の構造的な課題から目をそらさせる点では同じだと論考は述べている。
「強みを伸ばす」視点だけでは足りない
IPR CDEIの論考は、神経多様性をめぐる言論の歴史的変遷も整理している。20世紀の大半において、ADHDや自閉スペクトラム症、ディスレクシア、計算障害(ディスカルキュリア)、非言語性学習障害(NVLD)は、日常生活への参加を妨げる医学的欠陥として捉えられてきた。この「欠陥モデル」は神経発達の多様性を持つ人の否定的な側面にのみ焦点を当て、社会・組織側が排除に果たす役割を無視するものだった。
1990年代に入ると、ニューロダイバーシティ運動の台頭とともに言論は変化した。自閉スペクトラム症などを医学的な欠陥ではなく、人間の認知における自然なバリエーションと捉え直す視点が広まった。この運動は「障害の社会モデル」を基盤とし、包含・排除の責任を当事者個人ではなく社会・組織に置く。
しかし、こうした「強みにフォーカスする」視点が広まる中で弊害も生じていると論考は警告する。神経発達の多様性を持つ人々は、神経発達に差異のない人々に比べて明らかに高い失業率と短い勤続期間に直面している。過剰な刺激をもたらす職場環境、融通のきかない勤務時間や勤務場所、管理職の偏り、開示とマスキング(症状を隠すこと)にまつわる問題、障壁となる採用プロセスなど、構造的な排除は現実に存在する。「強みを活用する」という語りは、こうした構造的問題を覆い隠す機能を持ちうる。
企業が取るべき代替策
IPR CDEIは、ポジティブな固定観念を排した「神経包摂的(neuroinclusive)な代替策」として、組織としての開放性、当事者の声に耳を傾ける姿勢、そすべての人が利用しやすい設計(ユニバーサルデザイン)の採用を提示している。「強みを前提とした語り」ではなく、職場・採用プロセスの構造そのものを見直すことが、神経発達の多様性を持つ従業員との真の信頼関係の土台になると論考は述べている。
IPR CDEIはIPRが設立した専門部門で、BIPOC・LGBTQ+・女性・交差性・障害・メンタルヘルスの6分野を中心に、PR・コミュニケーション業界向けのDEI研究とベストプラクティスの共有を使命としている。
情報ソース一覧
- 「善意の」ステレオタイプがあなたのニューロダイバーシティへの取り組みを損なう - Institute for Public Relations “Benevolent” Stereotypes Are Undermining Your Neurodiversity Efforts - Institute for Public Relations instituteforpr.org
- IPR多様性・公平性・包摂センターについて - Institute for Public Relations About the IPR Center for Diversity, Equity, and Inclusion - Institute for Public Relations instituteforpr.org/about-the-center-for-diversity-equity-and-inclusion/
- CDEI - ダイバーシティ、公平性、包摂 - Institute for Public Relations CDEI - Diversity, Equity, and Inclusion - Institute for Public Relations instituteforpr.org
- ダイバーシティ、公平性、包摂(一般)研究 - Institute for Public Relations Diversity, Equity, and Inclusion (General) Research - Institute for Public Relations instituteforpr.org/dei-general/
- IPR CDEI シグネチャースタディ - Institute for Public Relations IPR CDEI Signature Studies - Institute for Public Relations instituteforpr.org
- IPRのダイバーシティ、公平性、包摂へのコミットメント - Institute for Public Relations IPR's Commitment to Diversity, Equity, and Inclusion - Institute for Public Relations instituteforpr.org/ipr-commitment-to-dei/
- IPRが新たなダイバーシティ、公平性、包摂センターを発足! IPR launches new Center for Diversity, Equity, and Inclusion! myemail.constantcontact.com
- IPRプログラムとパートナーシップ - Institute for Public Relations IPR Programs and Partnerships - Institute for Public Relations instituteforpr.org/cdei-partners/
- 企業が障がい者のインクルージョンを育むべき理由 Why Companies Must Foster Inclusion for People with Disabilities www.prnewsonline.com
- ニューロダイバーシティの鏡 Mirror on Neurodiversity s3-eu-west-1.amazonaws.com